教育、学び、そして学校 〜 94

公開: 2024年5月6日

更新: 2024年5月6日

注94. 落第のない、年齢別のクラス編成

明治初期に、学制が定められ、それに従って、義務教育が始まりました。このとき、教育法として、米国社会で定着していた一斉授業法が採用されました。しかし、その方法の前提にあった「学習進度別クラス編成」の考え方は、最終的に導入されませんでした。学習進度別クラス編成は、一斉授業法を採用する場合、その根底にある原則と言えるものですが、明治政府には、その原則の意味が分かりませんでした。

当時、文部行政を担っていた、元武士階級の出身者にとっては、人々の間に存在する知識の差の大きさを正しく認識することは、不可能だったのかも知れません。特に義務教育の段階で、そのような問題があることは、分かりませんでした。文部行政に関わっていた人々の関心は、むしろ、学習進度別クラス編成にした場合に発生する、「教員不足」問題の方が重要だったのです。それは、政府が直面していた財政問題が原因でした。

また、当時の義務教育に要請されていた獲得すべき知識の水準は、現代社会のそれと比較すれば、極めて低く、その目標を達成することは、一斉授業方式に、「学習進度別クラス編成」を導入しなくても、教員の努力で、何とか克服可能でした。そのため、児童・生徒の間に、学習進度の差が生じる「学習進度別クラス編成」よりも、全員が同時に進級できる方式を採用することとなりました。しかし、科学技術や知識の大幅な進歩で、学ぶべき知識の量は、大幅に増加しました。

この教育モデルと現実社会の実態との大きな違いが問題です。社会の進歩によって、児童・生徒たちが知っていなければならない知識の量は大幅に増加しています。学習進度の遅い、一部の児童・生徒にとっては、学ばなければならない知識の量が多く、その問題の克服は、絶望的に見えます。そのことが、それらの児童・生徒の学びの意欲を失わせるようです。この学ぶ意欲の喪失が、現代社会の教育で問題となっている「不登校」問題を引き起こす原因の主要な原因になります。また、その学ぶ意欲の喪失が、児童・生徒の一部を、「いじめ」行動へと向かわせることもあります。

この教育モデルと現実社会の実態との大きな「ずれ」を認識しながら、この問題の解決が、政治的に困難であることを理由に、問題を放置してきたことが、現代の日本社会で問題になっている、「不登校」問題と「いじめ」問題に共通する原因であると推論できるのです。つまり、現在の教育モデルである「学習進度に関係なく一斉授業法も可能とする仮説は、妥当でない」とする仮説を採用し、「学習進度に基づいてクラス編成を行い、一斉授業を行うことが妥当である」との主張の方が、有効である可能性が高いと言えます。

参考になる資料